9月5日(木)
窓の外が明るくなっているのが分かる。――朝か。僕は目覚めた。横にしていた身体を縦に直し、ふと窓の外へ視線を向ける。するとそこには、幻のような景色が広がっているではないか。
見たことのない種類の景色だ。辺り一帯、真っ直ぐな平地ばかりが続いている。円形の緑の低木がその地面の半分ぐらいを埋めているのだろうか。平地の行き止まりの遥か遠くには山影も見えるが、ほとんど地平線に近く平地が横たわり、視界を遮るものがない。一夜の移動で随分南に来たのらしい。今までの土地とは明らかに景色が違ってきた。
サボテンではないと思うが、パイナップルのようなとげとげしい葉を持つ木が道路脇に見える。低木が生えていない部分の土は乾燥しきった色だ。つい昨日までは緑溢れるロッキー山脈の麓にいたのに、眠っている間に僕は全然違った世界へ迷い込んでしまったようだぞ。
――このバスは魔物だ。いつの間にか僕を見知らぬ世界へと迷わせる。
――このバスは天使だ。いつの時も僕を新たな感動と出逢わせる。
アメリカ北西部のシアトルを出て14日目の朝。僕はアメリカ中部南端のエルパソを目指している。我ながら遠い所まで来たものだ。
どこまでも続くその景色を、シートにもたれ、まったりとしたままで眺めている。今は未知の土地に戸惑う僕。でも、幾らもしない内に僕の血肉の一部となってくれることだろう。何も恐れるものなどない。見事に順応してみせよう。
――山の裾野に街並みが見えてきた。いつもこのパターンだが、何度目にしても毎回素直に信じることができない。未開の土地がこれだけ続いた。目が覚めてから人気のある場所は全然通り過ぎなかった。そんな景色が続いて、どうして突然ポツリと街が現れるのだろう。僕を誘うあの蜃気楼の街には、実体があるのだろうか。バスは山に近付いて行く。沢山の建物が見える。本当に、街だ。
テキサス州北西部、メキシコとの国境になっているエルパソという街に到着した。この不毛の乾燥地帯にあることが信じられないぐらいに人間が密集した街だ。人口は約70万人。隣接するメキシコのファレスは120万だから、この一帯に合計190万人も暮らしていることになる。数えられるぐらいにだが高層ビルも立ち並ぶ、立派な都会だ。
このエルパソを起点にして、すぐ北のニューメキシコ州のカールスバッド国立公園とホワイトサンズ国定公園を周る予定だ。もちろん、メキシコにもちょっと足を伸ばそうと思っている。よろしくね、エルパソ。どうぞ僕を冒険させて下さい。
バスは市内の中心部にあるディーポに着き、とりあえず土屋さんと行動を共にすることにした。バスの中で話していて、彼も僕と同じカールスバッド国立公園を目指していることが分かった。彼は話術が巧みで、一緒にいるだけで楽しくなってくる。不都合が生じない限り彼と一緒に行動してみようか、という気持ちになっていた。土屋さんは元々単独行動をする予定だったらしいが、なにせ言葉は分からないし、どうしていいのか全く検討がついていないらしい。僕は無口な方だが、言葉と冒険のノウハウはある。互いの思惑が合致した。別れようと思えば、いつでも別れられる冒険の友。可能な限り一緒に冒険してみようか。これもまた新しい冒険の試みだ。やってみよう。
まずは市内のツーリストインフォメーションセンターを目指して歩いたが、途中で手持ちの地図がなんだか変なことに気が付く。周りのアドレスや建物を見て判断する限り、バスディーポの場所が移っていることが間違いないのだ。やはりガイドブックの情報には限りがあるね。
地図がなくてもツーリストインフォメーションを探すのは簡単なことだった。中に入って、カールスバットとホワイトサンズへのツアーがここから出ているかどうかを聞くと、またあの答え、「NO!」という可愛い答えが返ってきてくれたではないか。あぁ、ここでもまた素直にはいかないのか。これはまた冒険旅行の予感だろうか。
インフォメーションセンターを出ると、次は今夜の宿を決めることにした。土屋さんは手持ちの古いガイドブックを見て、そのガイドブックをフロントに提示すれば半額になるホテルに向かおうと言う。そのガイドブックは5年前のものだったので、僕は反対しようと思ったが、土屋さんは随分そこにこだわっているようなのでとりあえずは向かってみることにした。しばらく歩いてそのホテルの住所らしき所に着いても、辺りにホテルらしい建物がない。ようやく彼も諦めがついたらしく、次は僕の案を試してみることにした。
エルパソにも貧乏冒険者の味方、ユースホステルがある。歩いて行ってチェックインした。エルパソからの一日ツアーに参加してカールスバッドとホワイトサンズを周ろうとしていたので、土屋さんと3泊の予定で申し込んだ。
僕はここで会員登録料の18ドルを出してユースホステルの会員になった。簡単な個人データを書き、薄っぺらい会員証をもらう。会員レートで1泊13.5ドル×3泊分+貸しシーツ代2ドル+会員登録料18ドルを支払う。フロントのおじさんはとても親切で、メキシコへの行き方を丁寧に教えてくれた。地図もくれ、お勧めのレストランの場所まで教えてくれたので、大変助かった。部屋に荷物を置くや否な、僕と土屋さんとの考えは一緒。――いざ、メキシコに行こう!
エルパソは、リオグランデ川を隔ててファレスに隣接している。僕の勝手なイメージでは、アメリカの都市エルパソがこの一帯の主役で、それに付随してメキシコ側にファレスという脇役の街があるのだと思っていたが、それは違うらしい。70万対120万という人口の差を考えると、真の主役はメキシコのファレスらしいのだ。僕はそれを確かめるためにも、国境へと足を運ぶ。
国境へと続くエルパソ側の道は、とてもメキシコらしい(?!)雰囲気が漂っていた。凄くインチキくさい(失礼!)土産物屋や、メキシコ名物の銀製品(これも本物かどうか怪しい限りだ!)を取り扱っている店が道の両脇に並んでいる。日本のお祭りと似た雰囲気がする道を、足取りも軽く進んで行く。メキシコらしい(?!)土産物を指差しては、二人で「怪しいー!」と騒ぎながら、どんどん先へ行く。
遂に国境が見えてきた。橋の真ん中が車道で、両脇に歩行者用ゲートだ。車道も歩道も、それぞれ出国用と入国用で一方通行になっている。なんだか高速道路の入口みたいだ。
リオグランデ川に架かる一本の橋が国境の役目を果たしていた。これは地形に従った国境だ。橋のこちら側がアメリカ、向こうがメキシコ。劇的な場所であろう。残酷な場所であろう。間違いなくこの橋は無数のドラマを生み、同時に様々なトラブルを引き起こしてきた。この一本の橋を隔てるだけで生活が変わるに違いない。この橋は人生を現実的に右と左に分けているのだろう。重い意味を持つ川と橋である。
しかし僕は気楽な冒険者。異国情緒に酔いしれて不謹慎にもワクワクしながら出国用通路を通る。流れに沿って歩いて行くと、係員のいる窓口の箱にアメリカ出国税25¢を払っただけで肝心のスタンプなんて全然なく、素通りで出国できてしまった。
パスポートに押されるメキシコの入国スタンプを楽しみにしながらも、実はかなり緊張していたメキシコ入国だったのに、こんな簡単なものだとは拍子抜けだ。二人共、気が削がれてしまって「こんなもんか……」とつぶやき、メキシコはファレスの町に足を踏み入れたのだった。
国境のリオグランデ川を越えてすぐ、僕は感動に目を見張った。あぁ、たったひとつの橋を越えただけで、アメリカとは雰囲気が一変した。この人間臭さは一体何だ?!
ファレスへ足を踏み入れた途端に、誰もすぐ違いを感じるだろう。街全体から発せられる人間臭さは、僕の常識的な感性へ鋭く疑問を投げかけてきた。アメリカで感じていたのは「生活は整理されているが、人生はなんでもあり論」だ。ファレスは街全体から「人生は未だ混乱の真っ只中にあるんだ論」というものを発している。この人間臭さは、これからどんどん伸びてゆこうとする人間たちの向上精神溢れる情熱が醸し出しているものだ。失礼だが、これが発展途上国の雰囲気なのだろうか。あぁ、僕は知らない世界を冒険している!
国境を越えてからは「TAXI?」と声を掛けられっぱなしだった。勢いに乗っている二人だから、外面上は堂々と歩いてそんな声を寄せ付けない。だが、初めての国ということで腹の底はビビっている。
二人はユースホステルでもらったファレスの地図を見ながらメキシコ料理のレストランへ向かった。メインロードから一本外れるだけのことが、僕たちにとってはかなりの冒険だった。弱気な日本語を大きく叫ぶことで虚勢を張り、なんとか弱い所を周囲に漏らさないように歩く。
すぐにお目当ての店は見つかった。レストランというよりはメキシコ版定食屋というイメージだが、とにかく二人にとってメキシコの象徴であるタコスを頼むことができる店だからわくわくして暖簾をくぐる。
20席ぐらいの広さだろうか、昼下がりの店には我々の他に誰もいない。テーブルにつくと英語のメニューが差し出された。よく分からないけど、とにかくなんとかタコスとメキシコ産のテカテビールを頼む。メキシコは18歳から飲酒が認められているからね、堂々とビールがオーダーできて気持ちいい!
まずはつまみとしてチップスとサルサソースを持ってきてくれた。ソースにつけてチップスをかじった二人は同時に一言、「辛れぇぇぇ~」と叫ぶ!しかも、辛いくせに旨い。食べるのを止められない。これは不思議だぞ、一人が食べて「辛れぇぇぇ~」と楽しそうに文句を言う。すぐにもう一人が食べて「辛れぇぇぇ~」と笑いながら怒る。他の会話はなくなってひたすら「辛れぇぇぇ~」「辛れぇぇぇ~」の声ばかりが響く!もう、僕たちは楽しみながら「辛れぇぇぇ~」を連発!店員さんがいぶかしがるぐらいに、「辛れぇぇぇ~」をコールし合って腹を抱えて爆笑する二人!
タコスは野菜がふんだんに使われていて、とても美味しかった。アメリカ各地にあるタコスのファーストフード店しか知らなかったが、そこのものと比べると随分野菜が多く入っている。「I’m in Mexico!」と、二人はメキシコに酔いしれてタコスを平らげた。ユースホステルの人から生水を飲まないように、と重々注意されていたので絶対に飲まない。ビールを飲んで気分良く、本場のタコスを食べたという冒険談を創り上げたことに酔いしれ、最後には店の人に写真を撮ってもらったりした。二人ともビールまでオーダーしたのにとても安く、二人分で5ドルだった。支払いの時、米ドルが使えるのをみて僕は隣町との力関係を知った。
店を出ると、人間臭さがプンプンするマーケットへ乗り込んだ。アメリカの小奇麗なショッピングモールのような作りなのだが、どこともなく人間臭さがする。観光冒険旅行という新しい発想で調子に乗っていた僕は、チョコレートアイスクリームを買ってみた。スペイン語でいくら、と言われたような気がしたが、さっぱり分からないので、適当に1ドル札を出したら50¢もおつりがきた。つられて土屋さんも買ってみる。二人で「大丈夫かな~」と叫びつつも食べてみると、大味だったけどまぁ美味しいチョコレートだった。心配していたが、お腹も壊さなかったし、全然大丈夫みたいだ。
その一帯のマーケットでは、スニーカーが20ドルぐらいで沢山売られていた。流行のエアジョーダンに近い形だけど、全く知らないメーカーのもので怪しさ一杯、冗談満点!あとは革製品と銀のアクセサリー。Tシャツとか、怪しい(またまた失礼!)食べ物がひしめきあって並んでいる。
一通り中心街を歩いた後、少し外れまで行くと観光地ではないような所に迷い込んでしまった。1人じゃないから歩けたけれど、二人でも大変な冒険だった。「怖いっ!」「やばいっ!」とか、日本語で大合唱しながら歩いた。大声を出して足を速め、周りの人を誤魔化す二人。ほとんど信号がない道を、汚れた車が慌しく走り過ぎる。走って逃げ出したくなるような不安感を二人は虚勢を張って上手く隠し、中心街方向に戻った。
ドラッグストアで買ったコーラ瓶が3ペソだった。1ドル=7.58ペソぐらいだったから、物価はアメリカよりずっと安い。道を歩いていていきなりスペイン語でまくしたてられたりするし、英語は余り通用しないようだ。エルパソと川をひとつ隔てただけで隣接しているくせに、ここはアメリカとは完全に違う。アメリカがいかに受け入れる人間を厳しく選んでいるかを知った気がする。隣町ではあるが、エルパソとファレスは全く別の世界だ。
この街では残酷な運命の犠牲となっている人が多いのだろう。川を越えてしまえば物資豊かなアメリカだが、その川を越えることがファレスの人たちにとってはきっと不可能に近いのだろう。大都会が視界に入っているくせに絶対に辿り着くことができないサンフランシスコのアルカトラズ刑務所のようだ。
しばらく歩くと市場に戻れたので一安心した。道端のサングラス屋で4ドル出して買った安物をかけて、通り過ぎるメキシコの人をジロジロ見る僕。ファレスの住人と、エルパソからの旅行者がはっきりと分かるのがこの街の特徴だ。サングラス越しの遠慮のない人間観察はたまらなく楽しい。
あちこちに構えている野外の店で、大きなビンに入った原色のジュースが気になっていた。冒険ついでに3ペソ出して買ってみる二人。僕が買ったのは無難なレモネードで、これはちゃんとした味だった。土屋さんが買ったのはおぞましい味だった。マメみたいのが入っている、恐ろしくまずいジュース。口に含むだけでこらえきれずに吐き出す!二人で笑いながら交互に口に含んでは吐きまくってた。笑いまくって腹がよじれる!
僕も更に冒険、とオレンジ色のを買うと、これはメロン味でまぁまぁ美味しかった。しかし、このマメジュースだけは絶対に飲めない!後にも先にもないまずさ。一生忘れられないだろう余りのまずさだったので、感激の余り記念撮影までする程だったのだ。
マメジュースを捨てようとすると、僕に何かを売ろうとするヤツが近付いて来た。すれ違いざま、勢いでそいつにマメジュースを渡すとありがたそうに受け取って行った。それを見て土屋さんと二人で腹を抱えて大笑い!さっぱり訳が分からない!あのマメジュースを喜んでもらってくれる人がいるなんて!マメジュース、あなたのまずさは永遠に憶えておくよ。まず過ぎるのも抜群の才能だ!!
それからマーケットを隅々までウロチョロした。ここの高校生(だと思う)は、男女とも日本のように制服があるんだね。歩けば歩く程、街は人間臭さというものを僕に訴えかけてくる。別に本当に生活臭が強烈だという訳ではなくて、何というか、人間の生活感というか、例えるならば上野のアメ横の活気を倍増させたような空気が漂っているのだ。僕が経験する今までで最高の人間臭さ。そこにはここから更に向上してゆこうとする情熱が見えた。
そろそろ帰ろうとしていた頃、凄い勢いで雲が出てきて雨が振り始めた。最初は小雨から始まり、そのうちに雨らしくなってきたので軒下で雨宿りをした。雨の勢いは止まらない。どんどん雨脚が強くなってゆく。無邪気な雨の振り方に二人して最初は笑っていたけれど、勢いを増し続けて滝のように降り注ぐ雨を見て二人の笑いは凍り付いた。雨の勢いは本当に大したもので、調子に乗り続けて降った。それでもまだ楽観視していた二人。5分後、事態は僕たちの常識を超えていた。雨が――歩けないぐらいにまで道路に溜まったのだ!
地面に落ちた雨水が全く流れていかない。そうか、下水設備が全然整っていないのか。雨はそのうち急に止んだが、水は引かない。道路はもう膝下まで雨水で一杯だ!突然の雨が、人口120万人の大都市の道路を川に変える。こんな事態をどこの日本人が信じられるというのだ?二人は呆気に取られるしかなかった。
雨が上がると、軒下の二人を尻目に車が平然と水溜まりを散らしながら進んで行く。歩いている人はみんな裸足になり、ズボンを膝まで上げて進んで行く。もう僕たち二人もこの状況を笑い飛ばせるくらいになっていて、笑いながらズボンを捲り上げ、こちらのスタイルに合わせて歩くことにした。実際、ひんやりして気持ちいい。道路もぬるぬるしていてなんだか気持ちいい。二度とはないだろう経験こそ、笑って楽しむのが冒険家だ!こんなことをできる機会もなかなかないね!笑って楽しむのが正しい。見ると、他のアメリカからの旅行者もキャーキャー言いながら同じように裸足で歩いていた。今のファレスでしか味わえない楽しみだ!
国境近くまで歩くと水溜まりも無くなり、靴をはいてメキシコを出ることにした。メキシコ出国時に35¢を払い、スタンプを期待して入国審査の列へ向かう。メキシコ人専用の審査窓口は延々の人の列だった。それを横目に僕たちは全然並んでいないゲートでパスポートを見せると、荷物のチェックだけで終わりだった。メキシコ出国スタンプも、アメリカの出入国スタンプもくれなかった。ちょっとがっかりだったなぁ、これは。誇るべきメキシコ冒険記念スタンプはもらえなかったよ。
こうして3時間のメキシコ冒険旅行は幕を閉じた。人間臭さと大雨。僕の狭い常識をまた広げてくれた素敵な場所でした。あなたもこの僕の血肉となり、これからもこの胸に息づいてくれるだろう。いつかまたお逢いしましょう。短時間だったけど、特別な感謝を贈ります!
ユースホステルに戻ると、土屋さんは疲れたと言って眠り込んだ。僕は一人でツアーの情報集めに出た。やはりツアーがないので、グレイハウンドの時間を調べて直接行く方法に決めた。これなら2日あれば2つの目的地を周れる、というコースがあって各バスの時間を調べた。妥当だと思われるルートが見つかり、僕は満足してディーポを出る。
なんだかエルパソの街がさみしく見えた。夕方になると人も灯りも少ないし、エルパソも人口70万を有するなかなかの都市のはずが随分さみしい場所になっている。メキシコとアメリカという国との差は分かった。しかし、この2つの街だけで比較をすると、ファレスが発する人間臭さの勢いの方がエルパソを圧倒している。
戻ると、食事する店を二人で探しに出た。はっきり言って店は少ない。夜ということもあるのだろうが、大都市の割には閉まっている店が多く、やっとのことで店を見つけて入った。メキシカン&アメリカン&アラビアン料理という随分マルチプルな商売している店だった。とりあえずは持ち帰り用のタコスを頼んでみる。土屋さんはなんだかよく分からないスペルのアラビア料理を頼んでいた。
店員は話し好きなヨルダンの人だった。店に来た人たちからのお礼の手紙を沢山持っていて、日本人からの感謝の手紙とかも見せてもらった。住所を教えてくれればポストカードを書くよ、と言われ教え合う。とても楽しい人情との出逢いで、こんなの僕一人で冒険旅行をしていたらできたかな、と考えると土屋さんに感謝したくなった。
彼の屈託のない性格は人の心を開かせる。言葉を話せなくとも、彼ならば冒険旅行を人との触れ合いの内に続けることができる人だ。その点が、僕とは対照的だ。僕に足りない大きなもの。そうか、冒険旅行の楽しみ方というのはこんな方法もあるんだ!もうしばらく、僕一人ではできない冒険旅行の楽しみ方を続けさせてもらおうか。
ヨルダン人の店員さんと、もう一人の店員さんと僕たちで写真を撮った。ありがとう、また素晴らしい出逢いだよ。こういう経験の積み重ねが僕の心を開放するに違いない。
部屋に戻り、タコスを食べて眠った。ファレスで食べたのよりも野菜が少なく、肉が多かった。ここのユースホステルには地下にビリヤード台があったりするし、コインランドリーもあり、宿泊の機能は万全だ。眠る前、土屋さんに僕が予定しているこれからのルートを説明すると、彼も乗り気になってくれた。
エルパソでの初日は素晴らしいものだった。見知らぬ感動を幾つも、僕の血肉にできた気がする。さぁ、明日は次なる冒険に向けての移動だ。