京都らしさというか、日本の美を探している
お寺や神社は幾数も廻ったから、次は日本の伝統的なお祭り・葵祭りを選んだ
5月15日、当日は22℃ぐらいのベスト気温、加えて天気は五月晴れ
この上ないコンディションに恵まれて、京都の葵祭を見に京都御所へ
かなりの見物客が歩いていたけど、ちゃんと前もって有料観覧席をキープしていたから安心
葵祭りは音のない、静かなお祭りだ
色々な装束を着たキャラクターが歩いてくるが、何の音も、アクションも、表情もない
ただ、平安装束を着た人たちが、今は昔で行列しているだけ
歩いているのは現代人だが、この外見は平安時代から何も変わらない
メガネをかけた姿は?だけど、葵祭りの装束を身にまとえば、太古の人々と変わりはない
重そうな花笠を持った力持ちがいれば、やる気を感じさせない人もいる
もっと楽しそうに歩けばいいものを、なんだか華に乏しい祭りだなぁ、と思った
サラブレッドに乗った貴族を見て、ちょっと首をかしげた
あの時代の日本の馬って、サラブレッド種じゃなくて、今でいうポニーぐらいの短馬だよなぁ
牛車は素敵、藤の花をぶら下げ、後ろから多くの人に押されながら、牛車が進む
ギシギシと音を立てて進む様は、平安貴族らしく、優雅だけど原始的な営みだった
後半になって、女官たちが出てくると、葵祭の華やかさが一気に咲いた
日傘を上手に女官にあてて隣の男人が歩き、その横で対となって、女官が歩く
おしろいが濃いから美人さんなのかよく分からないが、とにかく面白いと思った
葵祭りのヒロイン、斎王代の登場は際立っていた
周りがザワザワし出すし、男性たちに持ち上げられて進む斎王代の駕籠はお姫様扱い
自分で馬に乗った女官のほうが勇ましくて素敵だったかな
斎王代といっても、手を振るわけでもないし、ただ持ち上げられて進む不動のヒロイン
いつの間にか、葵祭りの行列も終わり
スタートから40分程度、最後は救急車とパトカー(プリウス)が通る
音と動きに乏しいお祭り、どうも刺激が弱いと思ったけど、
これも数百年続いているそのままの形なのだから、文句を言える筋合いはない
良い席で葵祭りを見れたことに感謝したいな、天気も気温も申し分なかった一日
京都御所・建礼門の桜写真、一眼レフ撮影観光スポット
建礼門を満開の桜で飾ってみる。
塀に5つの水平線が見えるけど、京都御所の格式の高さを示すものだとか。
広大な京都御所、塀の長さに閉口しちゃうけど、桜の背後でボケさせてみるとキレイな絵に。
地面すれすれにまで垂れ下がった桜の枝、他所にはない美しさは京都御所だから?!
よくお手入れされた場所、音はなく派手なしかけはなく、でも美しい。
京都のお寺・神社はどこもそうだけど、中でも京都御所は突出している。
この日は自転車で京都御所内をまわったけど、これが正解!
歩きでは疲れすぎる距離感・・・それも京都御所ならでは。
京都御所は桜の名所のひとつ、日本人だから桜はどこにでもあるね。
偶然に目にした、3種類の色調↑、自転車を止めて思わずカメラを向けていた。
僕たちをタイムスリップさせてくれるのか、京都御所の時間が止まっているのか。
思い出すのは葵祭りを見たときのこと。
この京都御所から出て行く平安貴族たちの優雅な姿。
2005年12月1日
小説「女の嫉妬」牛車に裸で乗って帰ってきた夫、不倫の証拠?
砂利を踏む牛車の音。
すっかり寝静まったこの家にそれが段々近付いてくる。
――やっと帰ってきた。もう何時?
今夜ぐらいは起きて迎えようかな。
深夜まで仕事をしてきた夫を寝ずに待つ妻の役なんか久しぶりかも。
子供たちをとっくに寝かしつけて、わたしも随分前に床に就いていたのに
今夜は珍しく音で起きちゃったから。
細く木戸を開けて帰ってきた夫を覗き見るとあの人が牛車から裸で降りてくるじゃない。
――えっ?何?わたしは目を疑った。
褌や足袋は着けているものの、どうして服を着ていないの?何、これって?
あの人に何か指示された牛飼童が牛車の中に入って行ったと思ったら、
あの人の服を手に抱えて降りてきた。
朝着ていったいつもの出仕用の衣装。
いけない。見なかったことにした方が良かったのかしら。
そう思ったらこのままじゃいられない気がして、わたしはそっと戸を閉め、
最初から起きなかったフリで床に戻った。
夫が家に入ってくる。いつものように家族を起こさないよう。音を殺して。
子供たちもわたしもいつもはとっくに寝ている時間だから、
こんな遅くなった時には起きてゆかない。
――不思議。いいえ、不自然よ。どうして服を脱いでいたのかしら。
考えると段々イヤな方向にばかり想像してきちゃった。
お酒を飲んだら服を脱ぐ人でもないし。
出仕するにもあの服を好んで着ていたし、着替えて帰ってくるなんて今まで一度もなかったし。
ますます変。従者たちを帰したあの人は、
台所に置いておいた食事を静かに食べると別室の床に入っていった。
手のかからない良い夫ね。それは本当にありがたいんだけど。
――あぁ、分からない。あの服はどこで、何故脱いだの?
仕事に真面目で、生活も乱さずにきた夫に
そんな質問をするのが馬鹿馬鹿しくて、わたしなんか聞くに聞けないかも。
考えたら余計なことまで考えちゃう。
――まさか、浮気?
いいえ、あの人がそんなことをするのは想像できないのに。
子供たちと一緒に遊んで楽しそうにしているあの人の笑い顔を思い出すと、
そんな浮気とか女の人とかやっぱり考えられない。
――だって変よ、変じゃない。説明できないもの、あの裸は。
考えるだけ馬鹿馬鹿しいって分かってるのに。
あの人に限ってそんなことはないって分かってるのに。
夫の鼾が聞こえてきた。
こんなすぐに眠っちゃうぐらいなんだからやましいことなんてないんでしょ。
そうだと思うよ。思いたいよ。
わたしは眠れそうにない。
幾度も寝返りをうって、その謎の根元を見ようと一人やけになっている。
――やっぱり、浮気よ。
女の所から慌てて帰って来て服を着る時間がなかったの?
いつもこんな遅くにはわたしはもう寝てると安心してるから、
そのまま裸で家に上がってきたのかな。
いいえ、仮に浮気だとしてもそんな無用心、あの人には珍しい。
そんな安易なことをする人じゃないもの。
やっぱり分からない。でも知りたい。
考え込んでいたらますます眠れなくなってきた。馬鹿ね、ホント馬鹿ね。
考えても仕方ないことじゃない。そうだ、牛飼童に聞いてみよう。
あの童なら知っているはず。上手く口を割らせればいいことじゃない。
なんだ、簡単じゃない。そう、もう考えてもどうしようもない。
明日よ、明日。もう止めて寝ましょう。
あの人ののんきな鼾がずっと聞こえてきている。
いい気なもんね。わたしはあなたのことが心配で眠れないのよ。
本当に浮気なのかな?ただの思い過ごしかな?
考えないでいようと考えていたらますます考え込んでしまう。
突然、わたしは自分の胸が身体から飛び出すような激しい感情に揺さぶられた。
自分だけのものと信じて疑わなかった人が、
実はたやすく誰かに手を触れられていると知った未知の空間。
この空間に心を突っ込んでしまったらそれは恐ろしいスピードで私の心を嫉妬の赤に染めていった。
嫉妬の赤。嫉妬の赤がわたしに迫る。
許せない。その女が許せない。
大して愛してもいないくせにわたしの大切な人の肌に触れた。
わたしがどれだけ真剣にあの人との暮らしを過ごしてきたか分かってないくせに。
じっとしていられなくなって、わたしは厠に立った。
そっと歩くけど心は燃え滾って胃の中身を全部吐き出しそう。
目をじっとつぶって思い切り闇の中に無声で叫んでみる。
――駄目だよ、駄目だよ!そんな簡単に今までを、わたしを裏切らないで!
わたしは何度も何度も音を殺して叫んだ。
もうわたしの中だけに収まりきれなくなった心が一人歩きで暴れ出しそう。
目を開けたら危ない。歯を緩めたら危ない。
制御を失った暴力的な血がわたしの髪先から指先まで膨れ上がり、
わたしを不能の塊りにさせた。
激情。こんな醜い激情。
嫉妬の赤になすがまま、わたしはしばらく自分を切り離した。
落ち着くまで、どす黒い赤が落ち着くまで。
わたしは逆らえない渦に身を任せ、自分が自分であることを放棄した。
翌朝。翌朝って言っても何時間も眠ってないけど。
いつもの時刻に起き出した夫の気配でわたしも寝床を出た。
昨夜遅くなったことを何か言われると思ってドキドキしていたのに、
結局夫はいつも通り静かに朝食を食べるといつもの時刻に牛車で出仕して行った。
わたしもいつも通り子供の世話をしていたけど、
昼過ぎになってお昼寝で寝かしつけるとお使いの人に家を任せてあの牛飼童の家に向かった。
訪ねると丁度家の前の道で遊んでる牛飼童を見つけた。
好都合ね。「ちょっと」と捉まえてお菓子を手渡すと、無邪気に喜ぶ童子。
いい気なもんね、わたしの悩みも知らないで。
「ねぇ、ちょっと聞きたい」
そう切り出しても、お菓子を食べるのに夢中で聞いてるのか聞いてないのか微妙。
「昨夜は遅くまでかかっちゃったみたいでごめんね。帰ってきた時にはわたしももう眠ってたのよ。
ね、昨夜はどこから帰ってきたの?教えて」
そう言ったらあっさり答えられた。
「あー。とっても遅くにいつものお宮を出ましたから。おいらたちもずっと待ってたんです。
それよりも奥様、昨夜は帰り道大変だったんですよ。賊たちに囲まれたんですから!」
「え?賊って?」
「大宮大路から二条大路に牛車をやらせたら、
途中で5人ぐらいの盗っ人どもに囲まれてびっくりしたんでした!」
え?そんなことがあったのは知らなかった。
ここ平城京の夜の治安が良くないのは誰もが知ってることだけど。
「それで?無事だったのね?」
「うん、大丈夫でしたけどー。ご主人様ったら凄いんですよ!」
童子が笑顔になってなんだか楽しそうに話し始めた。
「盗っ人が来たでしょ。みんな怖くて真っ先に逃げ出したんだけど、
おいら遠くから振り返って見たら賊が牛車の戸を開けようとしてるとこで、
中には素っ裸のご主人が座ってたんです。
何か話してると思ったら賊どもが急に大爆笑してそのまま何も盗らずに立ち去って行ったんだ。
戻っておいらご主人に聞いたんだよ。
そしたらあれはわざと裸になってたって言うんだ。
盗っ人どもはどうして笑ってたの?って聞いたら、真面目な顔でご主人が言ったんです。
こんな遅くに大路を通ったらいつ賊が来てもおかしくないから、
最初から高価な着物は脱いで床下に隠しておいたって。
賊が来た時には先の大宮路でおたくらのような貴公子が寄ってたかって
私の着物を脱がしておいきになさったって言ったら賊はみーんな爆笑して帰って行ったって。
すっごいですねー、ご主人って。今思い出しても笑えるよー」
そう言って童子はケタケタと笑った。
――驚いたのはわたしよ。これっておかしい。すごい笑えてくる。
童子が笑うから、わたしもつられて思わず声に出して笑っちゃった。
「あははは。おもしろいわね!あはははは!」
「そうでしょ?!こんなおかしな話ってないよ!おっかしくてお腹痛い!」
笑い転げる牛飼童。お腹を丸くして笑ってる。
わたしもそのぐらいおかしいの。
おかしいってあの人じゃなくてわたしのことなんだけどね。
「あははは!おかしい!おかしいわ、わたし!」
馬鹿馬鹿しくて笑っちゃう。くだらなくて涙が出てくる。
わたし、何であの夫を疑ったりしたんだろう。
あの夜、家に着いても裸だったのは
盗賊に衣装を奪われないようにしたあの人の知恵だったみたい。
なんだか想像できる。
意気込んだ盗賊たちが牛車の戸を開けたら、素っ裸のあの人がポツンと座っていて、
馬鹿みたいに神妙な顔にかしこまった口調で、着物はもう他の盗賊に取られたって言うの。
それは賊たちも笑うしかないよね!
まさかそれがあの人の策だって気付くことなんてないのでしょう。
そんな立派な亭主を浮気者呼ばわりで疑っていたわたしが一番馬鹿馬鹿しい。
笑っちゃう、笑っちゃうよ、わたし。
「あははは、馬鹿ね!ホントに馬鹿ね!」
頭を抱えて笑うわたしを見てまた牛飼童が笑う。
「でしょう?奥様、ご主人様って天下の知恵者だよ!あはは、盗人どものバーカ!あはは!!」
「あはは!ホント馬鹿!馬鹿!馬鹿!あはははは!」
立ってられない。やってられない。馬鹿馬鹿しくて愚か過ぎて。
天下一の知恵者の夫と、天下一の馬鹿の妻。
仕方のない愚かさにわたし、嘲笑を止められない。
そんなことがあってもきっと家族には心配ないようにって、あえて黙っていたのでしょう。
そうよ、あの人はそういう人。今までもずっとそうだったじゃない。
何あんなに狂ったみたいに嫉妬していたのかしら。
あんなに心を動揺させて。あんなに自分を醜くさせて。
今晩帰ってきたら美味しい物を食べさせてあげよう。
あの人の好きな豆腐料理を一杯作っておいてあげよう。
どんなに遅くなっても今晩だけは絶対に待っててあげよう。
馬鹿な話ね、面白い話。笑っちゃうよ、笑っちゃうよ、わたし。