ケビン・ランデルマンが亡くなったと聞いた、あのランデルマンが。
2016年2月11日のこと、まだ44才という年齢で。
人の生死は時間の長短の問題とはいえ、
ランデルマンが見せてくれた男気のことを忘れないため、この詩的日記に残しておこう。
あれは2004年4月のPRIDE(GRANDPRIX 2004 開幕戦)、
ランデルマンはミルコ・クロコップを左フックで倒し、そのままパウンドでKOした。
打撃ではPRIDE最強と言われたミルコを、レスリングをバックボーンに持つランデルマンがパンチでKO?
意外過ぎて、誰もがびっくりした。
本来なら、ミルコがあっさりとランデルマンを左ハイキックで倒して、
そのままヒョードルと優勝を争う筋書きだったのに。
格下のファイターであったランデルマンは噛ませ犬というヤツで、
優勝候補のPRIDE寵児であるミルコの引き立て役でしかなかったはず。
僕が驚いたランデルマンの男気は、その逆転勝利のことではないんだ。
PRIDEファンに愛されているミルコのために、
PRIDEは同年12月にリベンジの舞台を用意した、あまりにも早過ぎるマッチメイクだ。
わずか8ヶ月後に組まれたケビン・ランデルマンとミルコ・クロコップとの再試合。
結果はミルコの勝利、珍しく打撃ではないフロントチョークでランデルマンは負けた。
ランデルマンの打撃も寝技も警戒しまくったミルコに、誰だって勝てるわけがない。
皮肉なことに、寝技が得意なランデルマンが、一試合目は打撃で勝ち、二試合目は寝技で負けた。
まぁ、驚異の身体能力と跳躍力でリアル・ドンキーコングの異名をとったランデルマンだ、
そのスタンドの打撃力もトップ級で、左フックでストライカーをノックアウトしているが。
生涯戦績33戦・17勝16負の勝ち越しだ。
1999年には第5代UFC世界ヘビー級王者に輝いていた、超一流の総合格闘家。
仕事とはいえ、ミルコとの再戦を受けたランデルマンに僕は男気を感じた。
そのまま逃げても「あのミルコに勝った男」として名誉を手に入れられるのに。
2回目の噛ませ犬、今回こそ負けは確率が高いのに、本当に受けていいの?
1回目の勝利の時、ランデルマンはファンに向けて言ったな。
「俺だってミルコは怖かった。でもお前たちファンのために、俺は戦っているんだ!」
その心根で、ランデルマンは極めて不利なミルコとの再戦を引き受けてくれたのだろう。
それもまたPRIDEファンのために。
ケビン・ランデルマンの男気が忘れられない。
僕も君も、困難に直面したとき、ランデルマンのような男気で立ち向かうのだ。
あの男気を、僕は忘れてはいけない気がしている。
ランデルマン ミルコ 再戦
2005/03/01 20:42:00
PRIDE男祭り2004−SADAME−でケビン・ランデルマンはミルコ・クロコップと再戦しました。
結果はミルコのリベンジが叶い、ケビンは負けました。
同じ年の4月、PRIDEヘビー級GPで優勝候補のミルコにまさかのKO勝利をしたケビン。
誰もが思っていたよ、総合格闘技界随一の打撃能力を誇るミルコ・クロコップが、美しい左ハイキックでケビンごとき、余裕でノックアウトするだろうと。
ところが逆にケビンの左フック一発で、ミルコはノックアウト負け。
いいえ、それはケビンの緻密な計算の勝利。
左フックの前に得意のタックルに入る素振りを何度も見せて、ミルコの意識にタックルへの構えを植え付けさせておいた上での左フックだったのだから。
打撃のエキスパートである自分ならケビンのパンチごときは問題にならない。
それよりもさっきから狙っているタックルが当然来るだろう、とミルコは心のどこかで思い込んでいた。
だからケビンが見せた一瞬の動作がタックルだろうと思い、瞬時の判断でミルコはガードではなくタックルを切るために腰の重点を下げた。
そこに入った、ケビンの渾身の一撃、左フック。
まさかの直接打撃。
ミルコにとっては予想外の左フックだったに違いない。
だから偶然のワンパンチじゃなくて、ケビンの計算とミルコの油断が重なった上での必然の決着。
勝利直後の男気溢れるコメント。
「俺だってミルコと戦うのは怖かった!俺も人間だからだ!だが俺はお前らファンのために戦っている!!」
それは怖いよ。
ミルコ・クロコップという最高のファイターと戦うのは。
いくら仕事でも、いくらプロだからと言っても、勝ち目の薄い格上の相手と戦うなんて滅多にできることじゃない。
その恐怖をくぐり抜けて、しかも秘めた策を成功させて勝利を得たケビンのなんと見事な生き様!
そのケビンの心のうちは、勝利後のコメントに表れているね。
ミルコはそのまさかの敗戦の絶望から這い上がり、年内に連勝を重ねて、ついには大晦日のPRIDE 男祭り 2004 -SADAMEーでケビンとの再戦にこぎつけた。
PRIDEのスター、ミルコ・クロコップの過去の過ちを取り戻すリベンジ戦ってやつね。
でもケビンには、そんな再戦を受けたところで何もメリットもないのに!
例えもう一度ミルコに勝ったところでプラスになることは少なく、逆に負けてしまったら一気に自分の株が落ちるだけなのに!
それでもケビンはその再戦要求を呑んだ。
PRIDEというイベントに操られているのも、ミルコの引き立て役にしかならないのも承知のうえで。
プロだから。
ファンがいるから。
それがケビン・ランデルマンの男気。
勝ったことじゃない。
そんな状況でも再戦を呑んだケビンのその勇気こそが、ケビン・ランデルマンという人物の強烈なメッセージなのです。
こんなこと、誰にできるわけではありません。
私はそこに、深い男気を読み取ります。
ケビン・ランデルマンのこの男気あふれる決断に、是非ともささやかな拍手を送ってあげてください。