あの東大寺の奈良の大仏様が、万の燈籠の灯りに包まれる瞬間があるらしい。
そう聞いた時から、僕の頭の中はそのイメージで一杯。
だって、僕の小説「奈良アートボックス」のクライマックスシーンと重なっているから。
そんなイベントがあるなら、写真に収め、「奈良アートボックス」と共演してもらいたい。
これは万難あっても参加するしかない、最初から心は決まっていた。
東大寺の万燈籠は年間1回だけのイベントで、お盆の8月15日に。
日中の暑さが消えた夜、東大寺南大門の参道には、詩的イベントを心待ちにした人たちが。
いざ、大仏殿前に着いたら、それはもう特別な光景。
奈良の大仏の大きさを愛して、東大寺を何度も訪れている僕もびっくりの変わりぶり。
万の燈籠に照らし出された東大寺、燈籠が並ぶ通路が際立って美しい。
良く見れば、開かれた観相窓の間から、奈良の大仏様が顔をお出しになっていた。
景色にも見とれたが、僕の目的は写真だから、すぐに我に返ってカメラを構える。
三脚は使用禁止だから、ISO感度を工夫して、なんとかブレないように撮影。
奈良の大仏様と夜にお会いするのは初めてのこと。
小説で書いた、松明に照らされた東大寺のイメージ、現実になった場所で大仏様と向き合う。
ここに踊り出す仏像がいれば、「奈良アートボックス」そのものが成立じゃないか。
夜に顔を見せた奈良の大仏様だけど、昼間の顔と何も変わらなかった。
もっと緩んだ表情を、あるいは思慮深いお顔を夜は見せると思っていたら、
いやいや、すでに境地を切り開いた方、いつも通りに決まっている。
奈良の大仏様の膝前で、お経を読み上げる僧たちの雰囲気が特別な夜を示していた。
後ろを向いて、大仏様の視点から、やってくる人たちを見渡す。
小説のイメージ通り、列を作り、盆踊りを始める人や仏像の姿があるじゃないか。
無数の燈籠に導かれて、人々が美しい光景を創り上げている。
その姿は、僕の小説の中だけにある空想ではなく、こうして現実世界にもあったのだ。
東大寺万燈供養会を肌で感じ、「奈良アートボックス」をより美しく書き足そうと思った。
小説と写真を融合、現実世界の美しさも加味して、もっと良いものに創り上げられる。
唯一無二、貴重な体験となりました、東大寺万燈供養会、美しい一夜の夢。